特別編1 FE208ES-R 試聴会 IN 東京(2007/03/10) |
スピーカー |
FE208ES-R (2007/03 限定頒布500本) |
¥78,750/本(税込) |
2000年に登場したFE208ESから6年余、遂に次世代機種FE208ES-Rが登場。その試聴会が東京の秋葉原ラジオ会館で行われた。広告未掲載の最新情報満載で紹介する。なお、極力メモは取ったが、聞き間違いの可能性はある。その点はご了承願いたい。
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<23kHzまで再生するハイブリッド振動板>
昨年9月のA&Vフェスタに参考出展された試作機と大きく様変わりしたのは何といっても振動板である。試作機はラジアル抄紙のESコーン紙だったが、『より軽く、より強く』をテーマにバイオセルロースをベースとして超高弾性カーボン(黒い部分)やマイカ(青い部分)などを混抄したハイブリッドコーンになった。気になる振動板質量は12gでESの15gより軽くなっている。バイオセルロースとカーボンの2つの成分で55%を超えるそうで、パルプは半分以下、もはや『コーン紙』ではない。
なぜ、バイオセルロースか。実はこれは金属並みの伝播速度と、しかし金属とは違って内部損失を持っている理想素材なのだ。ただし、繊維同士が絡みやすく、作りにくくて高価なので普通は振動板に混ぜるとしても数%程度。今回は限界に挑戦ということだったそうだが、この振動板を作れるメーカーは世界には無く、それどころかフォスター自身でも無理、40年以上のキャリアを持つベテラン2人くらいしかおらず、彼らの技量だけが頼りということで、まさに限定品でなければ製作が不可能な代物だ(もちろん頒布の500本の他にリペア用の振動板も確保している)。
さて、もうひとつ大きな変更点はセンターキャップへの純マグネシウムの採用だ。純マグネシウムは金属の中でも内部損失が大きく、今回のハイブリッド振動板と相性が良い。ボイスコイルボビン直結のいわゆるメカニカル2ウェイではあるが、このセンターキャップが効いているのは実は30kHz以上で、仕様に記載されている23kHz(−10dB)はハイブリッド振動板だけで再生している。これはバイオセルロースのおかげで、可聴帯域をすべて同じユニットで再生しているわけだ。ESはトゥイーターへバトンタッチを想定して高域は早めに落ちていたが(13kHz)、ES-Rでは高域を伸ばして、かつ低歪みを実現している。レーザードップラー(動作している振動板にレーザーを当てて200kHzまでの状態を測定可能)で測って、中域の逆共振(歪み)が減ったそうだ。 |

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<3.1kgアルニコマグネット使用の外磁型磁気回路>
ES-Rがその登場に6年余も必要としたのは、ESで採用されたフェライトマグネット2枚による反発磁気回路の完成度が高かったことも一因だそうで、それを超える意味で低歪を目指して高価ではあるが、アルニコの採用に踏み切ったとのこと。
この3.1kgアルニコマグネットは40cmウーファーW400A-HR(今春登場予定)と同じ物だそうで、そのことから考えても桁外れに強力なマグネットであることが分かる。ところで、アルニコマグネットはカバーを付けて内磁型にするのが普通なのだが、この巨大なマグネットを内磁型にしようとするとカバー径が20cmをオーバーするそうで、振動板よりも大きくなってしまう。それで、外磁型にせざるを得なかったそうだ。あと、少量生産ゆえにマグネットの表面の色はシルバーから黒までバラつきがあるそうだ。色は表面を少し削れば揃えられるが、更なるコストアップになるので断念、ご勘弁のほどを、との担当者の弁であった。
ポールピースには純鉄を採用。当初、無処理の純鉄を使ったが期待ほどの効果は得られなかったそうだ。これは4N以上の純鉄は粘りが出るので、普通の削り加工では熱が発生して変質するため。そこでゆっくり削ってその後磁気焼鈍処理をすることで特性的には変わらないが、音の広がり感(音場が広がりながらもキチっと定位する)が格段に向上したそうだ。銅キャップをかぶせて低歪も実現。
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<亜鉛ダイキャストフレーム>
ESのフレームはアルミダイキャストだったが、ES-Rは亜鉛ダイキャストになった。担当者から直接説明は無かったが、ダイキャストが出来る素材で一番比重が大きいのが亜鉛である。余談だが、フォステクスのモニタースピーカーRS-N2ではフレームに振動減衰特性に優れたハイカーボン鋳鉄を採用している。何故、ES-Rではハイカーボン鋳鉄を採用しなかったのか。答えはすぐに分かると思うが、磁束ダダ漏れの外磁型磁気回路のユニットのフレームが磁性体の鉄だったら恐ろしいことになる(笑)。なので、亜鉛しか無かったというわけだ。銅・銀合金ボイスコイルやUDRダンパーについても説明して欲しかったのだが、説明が無かった。残念。 |
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18mm厚シナ・アピトン積層合板のD-58ESとFE208ES-R |
21mm厚シナ合板のD-57とFE208ES-R |
<FE208ES-Rの試聴>
ユニットは組みあがって一週間、まだ接着剤も乾ききっていないため、試聴会途中でもエージングで音が変化していた。エンクロージャーはD-57とD-58ESが用意された。前者は40Hzまで中域と同等、後者は箱の幅が広がり30Hzまでハイレベルで再生する。
D-57はリョービスピーカー工房が製作したもので、材質は21mm厚シナ合板。D-58ESの方は2002年3月に208ESの後期型と同時に頒布された18mm厚シナ・アピトン積層合板製で、組立てはフォステクスのS氏。ES-Rの奥行きは120mmで、ESより5mm浅いので、双方ともご覧のとおりアダプターリング無しで装着可能。
そういった寸法的な面や原材料費高騰で真鍮アダプターリングが販売中止になっている現実的な事情の他に、音質的な面でも基本的にES-Rには真鍮アダプターリングは不要との見解であった。フレームが亜鉛ダイキャストで強度と質量が向上しており、マグネットの質量が軽くなって(ESは3.64kg、ES-Rは3.1kg)重量バランスが改善されていることもあるが、やはり真鍮リングを装着すると真鍮の鳴きの影響がどうしても出るからだ。ESはフレームがアルミダイキャストでハイエンドも早めに落ちていたため、真鍮の強度とその鳴きがメリットにもなったが、ES-Rのコンセプトには合わない。実際、後述のとおり、リング無しでまったく問題なかった。
さて、試聴はD-57、D-58ESの順番で各々20曲くらい、MYUタカサキさんセレクトによる長岡先生のA級ディスクやAUDIOBASIC誌の高音質ディスクなどが掛けられた。機材はプレーヤー、DAC、プリアンプとパワーアンプがアキュフェーズでケーブル類がフォステクスという、A&Vフェスタなどでお馴染みの構成。整理券が30番だった自分の位置は前から4列目、右SPのほぼ軸上正面。
D-57は自宅でES化D-58を聴き慣れている自分にはローエンドが物足りないが、一聴して分かるのは低歪だということ。ユニットが新品のせいで7曲目まではハイが伸び切っておらず少し不安になったが、8曲目から調子が出てきた。ただし、箱もたぶん新品でエージングが済んでおらず、その雑味が混じる感じはした。個人的にはこのD-57の演奏は、D-58ESに装着する前の準備運動のように思われた。今後、ネットで試聴会の感想がいろいろと出てくるだろうが、D-57についてはそれなりに割り引いて聞く方が良い。
素晴らしかったのはシナアピトンのD-58ESである。実は2002年4月にこの箱に装着した208ESを聴いている。その時はそれほどのアドバンテージは感じなかったのだが、今回は箱の乾燥も十分で1曲目から本領を発揮。シナ合板のD-57とはまるで別物である。改めてシナ・アピトン積層合板の説明をしておくと、堅くて重いアピトン材を柔らかいシナ材と交互に積層した板で、オリジナルのD-58ESは21mm厚シナ合板だったが、シナ・アピトンでは板厚は18mmに減ったのに重さは逆に重くなったという代物。板取りもこの板材用に変更され、オリジナルの弱点であった背面のほぼ全面に補強板が貼られている。これで悪い音がするはずがない。
NHKモニターに採用されたRS-N2を彷彿させる低歪のモニターライクな音でありながら、ネットワークレスの気持ちよい音。音場は広く見通しが良く、音像定位も良い。低音もRS-N2はボワっと反応が遅かったが(A&Vフェスタで隣のブースのECLIPSE TD725SWとの比較で)、D-58ESはそんなことも無い。まさに自宅で聴きなれているES化D-58をグレードアップした感じで、これを一発で実現しているのだから、凄い話だ。下手なトゥイーターは不要。箱の頒布の話は出なかったが、ぜひシナ・アピトンで聴きたいと思う。
会場が広く150人は入っており、大音量での試聴だったが、『小音量の反応もESより向上、エージングが進めば高域の分解能も向上するはず』『再頒布についてはまったくの未定で、現在は今回の頒布分をきちんと製作することに注力中』という担当者の方の説明で、試聴会は幕を閉じた。告知されなかったが、来週は大阪の河口無線で新商品G1300と一緒に試聴会が開催される。
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<定在波の影響について>(2007/03/12追記)
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このような試聴会で問題になるのが定在波の影響で(もちろん一般的な部屋でも発生しているのだが)、試聴位置によって中低域の特性は大きく変わる。定在波シミュレーションソフトを使って自分の試聴位置(Rch軸上)と『エネルギーバランスが変でまとまりが悪い。ミッドバスの下の辺りがスカスカ、ボーボーで、緩く薄く、悪く言えばユニットに制動が効いていない感じがした。』という評価のOZさんの位置(部屋側面中央)での中低域の特性をシミュレートしてみた。計算結果が参考になるのは200Hz付近までだが、ピークの高さがだいたい揃っていて(SP1・SP2・Totalのどれでも良い)、かつピークの密度が高い(=幅の大きなディップが無い)ほど良好とみなせる。計算結果から分かるように、OZさんの位置ではピークが揃っておらずディップの幅が広めなのでフラットには聴こえない。
ベテランマニアならオーディオ評論家ではない普通の人がスピーカーの中低域のF特について酷評をしても「定在波の影響だろうな」と推察するのだが、ビギナーはそれをそのスピーカーの本質的な音質なのだと勘違いしてしまう。オーディオは感性も大事だが、物理法則に則った純然たる音響現象でもある。そういった側面も踏まえて、環境や条件を無視したまま他人の評価を鵜呑みにはしないで欲しい。もちろん、自分の音質評価も例外ではない。
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