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創世*神器 アィデオン
第一話「出現」その6(全7回)

 暗闇のビル群のなかで、巨神と物体は互いの出方を探り合っているのか、双方ともしばし睨み合っていた。その均衡を破ったのは、物体の方だった。三本の鉤づめの1本が巨神めがけてするどく伸びてきた。巨神は上体を屈ませてそれをかわす。空を切った鉤づめが巨神の右肩の上を通り過ぎる。上体を屈ませた勢いを利用して、巨神は前転して物体との距離を縮め、伸びたままの鉤づめをつかんで立ち上がる。そして物体に手刀を叩き込もうと右手を振りかざした。
“だめっ、彼等を傷つけないで!”
 琴真の心の声が響く。巨神の動きが一瞬止まる。物体はその隙を見逃さなかった。鉤づめを引き戻しつつ、巨体を後退させる。
“デュウァッ!!”
 巨神が右肩を押さえて片ひざをつく。物体の鉤づめの先端が抉っていったのだ。しかし、巨神は視線を物体から離さなかった。すぐに立ち上がって構える。
“お願い、彼等を救ってあげて……”
 琴真は右肩から自分のが流れるのを感じていたが、それを拭いもせず巨神に呼びかける。彼等を救えるのは、巨神だけなのだ。

 猫好き兄妹の山科マキの部屋に、葵 結花と槙原絵里がいる。「チャトランがいなくなって失意のマキを慰める会」を結成した二人は会の目的を達成するべく、彼女の家に泊りに来ているのだ。終業式のあと、三人で小猫を方々探し回ったのだが、見つけることはできなかった。
 「ごめんねマキ、いろんなトコ探してみたんだけど……」
 「結花が謝ることはないってば。それより、今日は本当にありがとね」
 「でもォ、これだけ探していないってことは、もしかしてぇ」
 言いかけて、絵里がウ〜ンと唸る。
 「あぁ、もう、この娘ったら、じれったいんだから! もしかしたら何なのよ、絵里?」
 「もしかして、あの黒い霧の中にいるんじゃないかなぁ」
 「まっさかぁ! あんたって時々、ホンっト、突拍子もないことを言うんだから」
 「でも、確かに今日は街のほうには行けなかったし……今、どうなっているのかしら?」
 マキはTVのスイッチを入れた。前代未聞のこの事件について各局とも特番を組んでいたが、新しい情報は何も得られなかった。
 「とりあえず、今日はもう遅いから、寝よ、ね。明日にはワケわかんない霧も消えててさ、きっと見つかるって」
 「明日じゃぁなくってぇ、もう今日だと思うんだけどぉ」
 結花と絵里のやりとりに、思わずマキは吹き出してしまった。
 「相変わらずの迷コンビぶりね、あんた達って」
 笑いながらも、そういう友達がいてくれることをマキはありがたく感じていた。

 明かりの消えた部屋で、絵里とマキの寝息を聞きながら、寝つきの悪い結花は、ふと、
(あいつもあそこにいるのかな……)
 朝、都心に向かっていった背の高い少女のことを何とはなしに思った。
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 巨神の体にいくつものかすり傷ができていた。物体が下部の3本の鉤づめを高速に回転させて、何度も体当たりを仕掛けてきた結果である。深手はないものの、このままでは巨神が消え去るのは時間の問題だった。木野元琴真はよくがんばってはいるが、生身の人間を依代にしている以上、その活動には限界がある。何とかして物体の動きを止めなければならない。

 また、物体が迫ってきた。巨神は両足に力を溜めた。今度はかわさずに、真正面から立ち向かおうというのか。
“リャアァッ”
 ぎりぎりまで物体を接近させ、巨神はジャンプした。そして、物体の真上から体全体を使って押さえつけるように降下した。それは成功した。物体は地面に叩き付けられ、鉤づめが激しく折れ飛ぶ。宙を舞う鉤づめの破片は、しかし風化するように消えていった。
 もがく物体を巨神は押さえつけ、物体の上部に位置している緑の光点を引きちぎった。その瞬間、物体から突き出している2本の結晶体が烈しく輝いた。一種の電撃だったのか、巨神は仰け反って倒れる。
 起き上がろうとした巨神を、物体が水平方向に突き出した結晶体を使って横なぎに襲ってくる。辛くも横転してかわした巨神は、背を向けた物体につかみかかろうとするが、物体は逆にその姿勢のまま、体当たりしてきた。
 これはさすがにかわしきれないか、と見えたが間一髪、巨神は物体の頭部をつかみ、そこを支点にして宙に跳躍、半回転ひねりを加えて着地したときには、物体と相対していた。
 互いに一歩も譲らぬ攻防であった。

呪殺!)
 業を煮やした物体の中の邪悪な意志が命令を下す。物体の表面から光点が消え、2本の結晶体もその黒い巨体のなかに消えて、物体は出現時の姿に戻った。
 そして……。
 黒い粒子の嵐が巨神めがけて襲い掛かってきた。
25 ▽(その7へ続く)   26
< Last Update 97/11/03 >

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