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創世*神器 アィデオン
第一話「出現」その5(全7回)

 暗闇に蛍火のようなの光が舞う。柔らかく、暖かく、そしてゆるやかに舞う光たちが徐々にその数を増していく美しい光景は、見るものの心を優しい想いで包みこまずにはいられない。だが、いまこの場にいる物体にそんな感情は無縁のものだった。昏く、狂おしいほどに猛る衝動――復讐に突き動かされている物体は、敵の出現の完了をじっと待ち続けているが、その心の内の怒りと憎しみを表すかのように、黒い巨体に記された赤・緑・青の3つの光点は烈しく明滅していた。
 やがて光たちの輝きが、姿あるものの形をとりはじめた。巨大な人、のようである。身長は80mにもなるだろうか。両肩とひじに短い突起をもち、腰部にアーマー、胸部にはプロテクターらしきものを装備した戦闘的な姿だ。特徴的な頭部は、ゴーグルと巨大なエンブレムと稲光のような形をしたフェイスガードで護られ、頭頂には曲線で構成された斧の刃を連想させる飾り(武器かもしれない)が、戦神的な雰囲気を強固なものにしている。
 しかしその身体にはまだ力が入っていなかった。頭部は垂れ、指先はだらりとしてまるで糸の切れた操り人形のようだ。ただ、頭についている3つの宝玉のようなものが、赤・緑・青とかすかにその色を変化させている。
(彼奴め、まだ目覚めておらぬのか?)
 物体のなかの邪悪な意志がほくそ笑む。
(……ククク、これはいい。ならば、いまのうちにバラバラにしてくれるわ)
 復讐の時をいまかいまかと待ち続けていた物体についに攻撃の命令が下された。静止したままの巨神に向かって、物体が猛烈な勢いで迫っていく――
アィデオン
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 「中の様子がわからんのでは、手の打ちようがないか……」
 ことごとく失敗した、黒い霧の内部探索の試みの報告に目を落として、対策本部長はつぶやいた。時刻は午前二時。最初の異変(波紋の発生)から17時間が経過していた。
 「少しお休みください。何か動きがあれば、すぐにお報せいたしますから」
 「おぉ、藤枝くんか……そうだな、それじゃ30分ほど頼むよ」
 本部長は藤枝警部の顔を見上げて、彼の心配りに感謝した。藤枝警部は40歳、いまだ独身だが養子が一人いる。彼が養子をむかえるに至ったいきさつを知る者は、十数年経った今ではほとんどいない。本部長はその数少ない人間の一人だった。
 「さくら君は、元気にしているかね?」
 「はぁ、少々元気すぎて、毎日ケンカばかりしていますが……」
 「熱血漢なところは、昔の君にそっくりだな」
 「恐れ入ります」
 彼の養子、藤枝さくらは、学校の不良グループや街のチンピラたちとよく衝突を起こしていた。補導官たちの間でも藤枝さくらの名は知れ渡っており、本部長もそのうわさは聞いていた。
 からまれている者を見かけると放っておけない性分で、そのためトラブルが絶えないのである。
 「全く、困ったやつです」
 「彼女でも出来たら少しは自重するようになるんじゃないかな」
 君みたいに、という一言を本部長はつけ加えなかった。藤枝警部の愛した女性、つまり藤枝さくらの母親はもうこの世の人ではなかったが、警部の彼女への想いはいささかも衰えていないことを本部長はよく知っていた。
 外界と異なる時間の流れの中に閉ざされた黒い霧の中で、長身の少女――木野元琴真は一心に祈っていた。しかし、未だ巨神は動かない。
(どうして?)
 琴真の額にうっすらと汗がにじむ。
 ――あの出逢いは幻だったの? この世界を護ることは出来ないの?
(お願い、応えて!)
 涙をこらえながら祈り続ける琴真の耳に、ふいに哀しげな子猫の鳴き声が聞こえてきた。
 「え?」
 思わず眼を開けて足元を見ると、一匹の小猫が琴真を見つめて鳴きつづけていた。
 「……おまえ、どこから来たの?」
 琴真はそっと身をかがめて、その小猫を抱き上げようとした。だが差し伸べた指先が触れた瞬間、子猫は透明な光の固まりになって、弾けるように散り拡がった。戸惑う琴真の周囲をあさつゆにも似た清く澄んだ光の粒が、まるで彼女の迷いを洗い流そうとするかのようにとり囲んで、くるくると回転する。
 その光の粒の輪が縮まって琴真の中に吸い込まれたとき、琴真の意識が広がった。先ほどの小猫の声といっしょに無数の声なき声が聞こえてくる。自分よりも他者の救いをひたすら願う心たち。その熱い想いが、琴真の体中に充ちていく。
 いま、ひときわ大きな輝きが琴真の身体から発せられ、そしてそれは闇の中で静止したまま待ち続けている神の器へと向かって天高く飛翔していった。
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 怒涛の勢いで、物体が巨神に迫る。物体の中の邪悪な意志は、100%の勝利を確信していた。だが、まさに巨神と物体が接触せんとしたそのとき! 巨神の周囲に緑のエネルギーのカーテンが展開され、物体は弾き飛ばされた。
(おのれ、まさか!)
 物体が上空を見上げる。黒い霧を鮮やかに突き抜けて、緑の光球が降下してくる。それが巨神の頭頂の宝玉にフッと降着すると同時に、ギンッ!と巨神の眼に光が宿る。
(!、目覚めおったか)
 物体が体勢を立て直す。
(……まぁよい、そうでなくては面白くない)
 巨神と物体が再び対峙する。巨神は両足を肩幅ほどに開き、右腕はわきと肘をひきしめ、左腕を心臓をガードするようにやや前方に掲げて構える。
シュアァッ!!!”
 緑の巨神が発した裂帛の気合が、澱んだ大気を切り裂いた。
21 ▽(その6へ続く)   22
< Last Update 97/11/03 >

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